子なし夫婦の相続 義兄弟に自宅を渡したくないなら遺言書が必須 その理由と書き方

「自分が先に死んだとき、この家は妻(夫)のものになるのだろうか」

そう考えたことはありますか?

子どものいない夫婦の場合、遺言書がなければ義理の兄弟姉妹や甥・姪が法定相続人となり、住み慣れた自宅を手放さなければならないリスクがあります。

しかも、これは決して珍しいケースではありません。

そこで必要となってくるのが「遺言書」です。

本記事では、子なし夫婦の相続がなぜ複雑になるのか、そして遺言書でどこまで配偶者を守れるのかを、行政書士・宅建士の視点から解説します。

ぜひ、本記事を参考に、将来への対策に役立てていただければと思います。

目次

子なし夫婦の相続人は誰になるか

子なし夫婦の場合、「遺産は残された配偶者がすべて引き継ぐ」と思われがちですが、法律上はそうではありません。

亡くなった方の親や兄弟姉妹(残された配偶者から見た「義両親」や「義兄弟姉妹」)も法定相続人となります。

まずは、法定相続人の順位を確認しましょう。

順位相続人備考・条件
常に相続人配偶者常に相続人
第1順位子(および孫)子なし夫婦にはいない
第2順位親(および祖父母)存命なら相続人に
第3順位兄弟姉妹(および甥・姪)親も亡くなっていれば登場

子なし夫婦の典型的な相続パターン

子なし夫婦には第1順位である「子」がいないため、第2順位または、第3順位が配偶者と一緒に相続人となります。

  • 「配偶者 + 義両親」(亡くなった方の親が存命の場合)
  • 「配偶者 + 義兄弟」(亡くなった方の親がすでに他界している場合)

ここで焦点となるのが、「義兄弟」も相続人であることです。

義両親が共に他界してれば、相続人は「配偶者である自分だけ」と思っている方は非常に多いです。

しかし、民法上のルールでは、相続順位第2位の義両親が亡くなっていた場合は、第3位の義兄弟が相続人となります。

年齢的に50〜60代以上の夫婦であれば、すでにお互いのご両親が他界されているケースは非常に多いです。

そのため、子なし夫婦の相続では、残された配偶者が義理の家族と遺産分割の話し合いをしなければならない可能性があることを、念頭に入れておきましょう。

遺言書がないと何が起きるのか

残された配偶者と義理の兄弟姉妹が法定相続人となる場合、「遺言書」を残していないと、残された配偶者は自宅を失ってしまうリスクがあります。

どうしてそうなってしまうのか、解説していきます。

義兄弟は「1/4の法定相続分」がある

遺言書がない場合、民法で定められた「法定相続分」を基準に、遺産を分ける話し合いをします。

配偶者と義兄弟が相続人となる場合では、義兄弟の法定相続分は「全体の4分の1」です。

相続のパターン配偶者の相続分その他の相続人の相続分
配偶者と親(義両親)3分の2親:3分の1
配偶者と兄弟姉妹(義兄弟)4分の3兄弟姉妹:4分の1

遺産に十分な預貯金があればよいですが、主な遺産が「自宅のみ」の場合は問題が出てきます。

具体例:自宅の評価額が2,000万円の場合
  • 遺産総額:2,000万円(自宅のみ)
  • 義兄弟の法定相続分(1/4):最大500万円

妻(または夫)がそのまま自宅に住み続けたいと希望した場合、義兄弟の権利分である500万円を「代償金」として現金で支払う必要が生じる可能性があります。

もし、手元に500万円の現金が用意できなければ、最悪の場合、住み慣れた自宅を売却して現金化し、そこから義兄弟へ支払わなければならないということです。

2.遺産分割協議をする必要がある

遺産をどう分けるかを確定させるためには、相続人全員で「遺産分割協議」を行い、合意する必要があります。

しかし、実際際には配偶者が義理の家族と直接やりとりするのは簡単ではありません。

  • 疎遠な義兄弟全員の印鑑が必要
  • 代襲相続で「甥・姪」まで登場するケースも

普段まったく連絡を取っていない義兄弟であっても、手続きには全員の合意と実印での捺印が必要です。

もし、義兄弟の中にすでに亡くなっている方がいる場合、その子どもである「甥や姪」が代わりに相続人ととなります。(代襲相続)

そうなると、相続人の人数が増え、より関係性の薄い相手と遺産分割協議をしなければならなくなります。

「争うつもりがなくても」時間と労力がかかる

「うちの義兄弟は欲がないから、財産を渡すと言ってくれるはず」と思う方もいるかもしれません。

でも、たとえ相手に争うつもりがなく「すべて配偶者に譲る」と言ってくれたとしても、手続きの負担は変わりません。

相続人を確定させるには、まず戸籍を集めます。そのうえで、遠方に住む義兄弟や甥・姪に連絡をとり、事情を説明して遺産分割協議書を送ります。さらに、実印を押してもらい、印鑑証明書も取り寄せてもらう必要があります。

配偶者を亡くした深い悲しみの中で、こうした事務作業を一人で行うのは、想像を絶する時間と精神的な労力がかかります。


このように、遺言書がないと、残された配偶者は「代償金の支払う可能性」や「相続人との話し合い」という2つの負担を背負うことになります。

これらを防ぐためにも、生前に「遺言書を作成しておくこと」はとても重要なのです。

遺言書があれば義兄弟には1円も渡さなくていい

「義兄弟に家を取られるかもしれない」「甥や姪まで全員のハンコが必要になる」

ここまで読んで、頭を抱えたくなった方もいるかもしれません。

大丈夫です。遺言書を残しておけば、義理の兄弟姉妹には1円も渡さずに済みます。

その鍵となるのが、「遺留分(いりゅうぶん)」という法律のルールです。

「遺留分」とは

遺留分とは、一定の法定相続人に保障されている「最低限の遺産を受け取る権利(取り分)」です。

例えば、亡くなった方に子どもや親がいる場合、遺言書で「全財産を配偶者に譲る」と書いたとしても、子どもや親はこの遺留分を主張することで、最低限の財産を取り戻す権利があります。

つまり、子どもや親が相続人の場合は、遺言書があったとしてもその取り分を完全にゼロにすることは難しいのです。

義兄弟(兄弟姉妹)には「遺留分」がない(民法第1042条)

相続人遺留分遺言書の効果
子・孫あり完全にゼロにはできない
親・祖父母あり完全にゼロにはできない
兄弟姉妹・甥姪なし遺言書で完全にゼロにできる

ところが、法律(民法第1042条)では、遺留分の権利を持つ人を「兄弟姉妹以外の相続人」と規定しています。

つまり、兄弟姉妹(残された配偶者から見た義兄弟)には、遺留分が一切認められていないということです。

したがって、兄弟姉妹やには「最低限の取り分」も存在しないのです。

「全財産を配偶者に」の遺言書で解決できる

このように、夫(または妻)が生前に、「全財産を妻(夫)に相続させる」という遺言書を残しておくだけで、遺産は100%配偶者のものになります。

義兄弟には遺留分がないため、「自分にも法定相続分の4分の1の権利があるはずだ」「少しは現金を分けてほしい」と法的に主張することは一切できません。

遺言書があることで、前述した「数百万円の代償金の支払い」や「疎遠な義兄弟全員への連絡や実印をもらうこと」もすべて不要になります。

「遺留分がない」という法律の仕組みを利用し遺言書を残しておくことで、愛する配偶者のこれからの生活(自宅や老後資金)を確実に守ることができます。

加えて、重要なポイントなのが、「夫婦それぞれ」が遺言書を作ることです。

なぜなら、どちらが先に亡くなるかは誰も分かりませんよね。そのため、どちらが先に亡くなっても対応できるよう、2人ともが遺言書を作る必要があります。

配偶者を守るための遺言書の選び方

遺言書には、主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があり、それぞれ特徴が異なります。

自筆証書遺言 vs 公正証書遺言 どちらを選ぶべき?

項目自筆証書遺言公正証書遺言
費用ほぼ無料数万〜10万円超
作成の手間自分で書く(原則として全文手書き)公証人が作成(証人2名以上の立会いが必要)
無効リスク形式不備(日付や印鑑の漏れなど)で無効になることあり法律のプロが作成するため、ほぼなし
保管自分で保管、または法務局の保管制度を利用できる公証役場が原本を厳重に保管
検認
(裁判所での確認手続き)
原則必要
(※法務局の保管制度を利用した場合は不要)
不要
推奨度とにかく費用を抑えたい場合自宅などの不動産があるなら「強く推奨」

自宅が含まれるなら「公正証書遺言」を推奨

費用を抑えたいからと自筆証書遺言を選ぶ方も多いですが、遺産の中に「自宅不動産」が含まれている場合は、多少費用がかかっても「公正証書遺言」をおすすめします。

  • 形式不備で無効になる可能性がほぼない
  • 相続開始後、すぐに登記(名義変更)の手続きに使える
  • 義兄弟から「偽造だ」「無理やり書かせた」と言われる余地がない

自筆証書遺言は、法律で定められた方式(全文自書、日付、署名、押印など)を少しでも間違えると無効になってしまいます。

公証人が作成する公正証書遺言なら、こういったミスを防ぐことができます。

また、公正証書遺言は家庭裁判所での「検認」という時間のかかる手続きが不要です。そのため、配偶者が亡くなった深い悲しみの中でも、速やかに自宅の名義変更手続きを進めることができます。

そして、自筆証書遺言の場合、疎遠な義兄弟から「本当に本人が書いたのか?」「認知症で判断能力がなかったはずだ」と疑いや言いがかりをつけられるリスクが残りますが、公証人という公務員に準ずる専門家が本人の意思を確認して作成する公正証書遺言であれば、こうしたトラブルを回避することが可能です。

このような理由から、大切な配偶者と住み慣れた自宅を守るためにも、確実性の高い「公正証書遺言」での作成をぜひ検討してみてください。

自宅を守るための遺言書の書き方 基本と注意点(不動産編)

  • 不動産は「登記簿謄本(登記事項証明書)」通りに記載する
  • 「遺贈する」ではなく「相続させる」と書く
  • 「付言事項」で想いを残す(残された配偶者の精神的支え)

自宅などの不動産を確実に配偶者に残すためには、遺言書に記載する内容が非常に重要です。

自筆証書遺言を作成する場合、財産目録以外の全文、日付、氏名を自書し、印を押さなければならないと法律で定められています。

ここでは、不動産を配偶者に残すための具体的な記載例と、押さえておくべき注意点を解説します。

①不動産は「登記簿謄本(登記事項証明書)」通りに記載する

記載例にある第1条の「不動産の表示」は、普段郵便物が届く住所(住居表示)ではなく、法務局で取得できる「登記事項証明書」に記載されている内容(所在、地番、家屋番号、種類、構造、床面積など)の通りに正確に書き写す必要があります。

記載が曖昧で不動産を特定できないと、遺言が無効になったり、登記手続きを断られたりする場合があります。なお、土地・建物の登記事項証明書は、オンラインで請求することも可能です。

② 「遺贈する」ではなく「相続させる」と書く

配偶者など、もともと法定相続人である人に財産を渡す場合は、必ず「相続させる」と記載してください。

似た言葉に「遺贈する」がありますが、実務上の登記手続きに大きな影響が出ます。

「相続させる」旨の遺言(法律上は「特定財産承継遺言」と呼ばれます)であれば、基本的には遺言執行者がいなくても、不動産を受け継ぐ配偶者が自ら対抗要件を備えるための行為(単独での登記手続きなど)を行うことができます。

一方で「遺贈する」と記載してしまうと、遺言執行者がいる場合は、遺言執行者のみが履行を行いますが、遺言執行者が指定されていない場合は、残された配偶者が他の相続人(疎遠な義兄弟など)全員と共同で登記申請をしなければならなくなる可能性があり、非常に手間がかかってしまいます。

③ 「付言事項」で想いを残す(残された配偶者の精神的支え)

法律で定められた財産の分け方とは別に、遺言書の最後に「付言事項(ふげんじこう)」としてご自身の気持ちを自由に書き添えることができます。

「長年連れ添ってくれてありがとう。今後の生活の支えとなるよう、すべての財産を妻に託します」といった想いを文章にすることで、残された配偶者にとって大きな精神的な支えとなります。

また、遺言書を見た義兄弟に対しても、「本人の強い意思なのだ」と納得してもらいやすくなる効果があります。


上記のポイントを押さえて、有効な遺言書を作成しましょう。

子なし夫婦の相続は遺言書が必須 まとめ

子どものいない夫婦は、何も対策をしなければ義理の兄弟姉妹が相続人となり、住み慣れた自宅すら手放さなければならないリスクがあります。

しかし、遺言書を一通残しておくだけで、そのリスクを防ぐことができます。

大切なのは、以下の5つのポイントです。

  • 子なし夫婦は、法律上「義兄弟が相続人になる」リスクがある
  • 遺言書一枚で、義兄弟への相続をゼロにできる
  • 自宅不動産が含まれる場合は、公正証書遺言が安心
  • 夫婦2人それぞれが遺言書を作ることが重要

「いつか作ろう」と思っているうちに、その「いつか」は来ないものです。元気なうちに、ぜひ2人で話し合う時間を作ってみてください。

「書き方がわからない」「こういう場合はどうするの?」といった素朴ば疑問からでも大丈夫です。

さえぐさ行政書士事務所では、公正証書遺言の作成の文案作成や手続きをしております。

お困りの際は、当事務所にご相談ください。

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